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Introduction

駅前に広がる商店街内に佇むのは、三代続く老舗「かまぼこの近末」。朝早くから丹精込めて作られるかまぼこや天ぷらを求めて、今日も近所の人が足繁く通います。午前中には、特別な天ぷらと出合えるかもしれません。


代々受け継がれる、地域の食卓を支える味

かまぼこの近末

午前中だけの誘惑「できたてアツアツ」

 「平天もうある?」「これから揚げるけん、ちょっとまって~」。地元ではお馴染みのやりとりに、胸がほっこり温かくなります。竹原の商店街「あいふる通り」に位置する「かまぼこの近末」の練り物は、地域の食卓には欠かせません。
 昭和7年創業、現在は三代目 近末昌嗣(まさつぐ)さんが、今なお変わらぬ製法を受け継いでいます。保存料を使用せず、原料の「スケトウダラ」を大きな石臼ですり身にし、塩、調味料とデンプンで、練り物の種類ごと、違った配合で仕上げます。早朝から仕込み始め、10時頃には揚げたてアツアツと出合えることも。そんな時は、思い切って声をかけるのがおすすめです。「できたて」が買えるのはこの瞬間だけ。たっぷりの菜種油で揚がったばかりの練り物は、身がふっくらとしています。ハフハフとしながらほおばれば、口に幸せが広がります。何を揚げているかは時間によってお楽しみに。揚げたてを片手に町散策も乙ですね。

体に刻まれた、受け継ぐ技をテンポよく

 この日作っていたのは「玉子天」。カットしたゆで卵を、鮮やかな桃色のすり身で包みます。すり身を広げる昌嗣さんの手際の良いこと。秤も使わずに一定の量をまな板に広げ、卵を包んでは油に入れての繰り返し。体が覚えるリズムに乗せて、次々に揚げていきます。油の中でぷくぷく踊る練り物は、奥様 好美さんがいい頃合いで引き上げます。
 練り物は、揚げたてと時間が経ったものだと味わいが違うようで、「うちの子どもたちは、揚げたてよりも時間を置いて身がギュッと締まった方が好みなの」と好美さん。実際に食べ比べると、納得です。揚げたては身がふわふわと柔らかいのに対して、時間を置いたものは歯応えがあって噛むほど味わいが増してくる。どちらも魅力的です。

地域の食卓を支える「近末」の練り物

 「今日はうどんに入れるのよ」と、店を訪れた人が食べ方を教えてくれました。良い出汁が出るからと、煮物に入れたり、おでんにしたりするお客さんが多いのだそう。また、近末には先に紹介した「玉子天」のほか、この地域定番の四角い天ぷら「平天」、「ごぼう天」や「チーズ天」など、お酒にもぴったりの商品がそろいます。中でも、玉ねぎと胡椒の効いた「松かさ天」は、好美さんが小さい頃から、おやつがわりに両手に握りしめてパクパク食べていた思い出の味。それぞれ2~3個ずつのセットにしたり、数種類が入ったパックにしたりして、地元のスーパーや道の駅などに卸しているそうです。

 「今は時代も変わって、手作りに限界があることを身に染みている」と昌嗣さん。今のところ後継ぎを考えることはしていないそうで、この「昔ながらの味」がいつまで食べられるのかは分かりません。けれど、地元の人だけでなく、観光や仕事で訪れる人からも「美味しかったから、また買ってきてと頼まれた」「同僚から噂を聞いて来ました」と、足繁く通う常連がいることも確か。近末のかまぼこで育ってきた人たちが、きっとこれからもこの味を支えてくれることでしょう。

Information

取材先:
かまぼこの近末
営業時間:
8:00~18:00
定休日:
水曜、木曜(その他不定休あり)
住所:
725-0026
広島県竹原市中央2-6-27
アクセス:
JR竹原駅から徒歩5分